前回の「延命治療」に続くテーマとして、「安楽死・尊厳死」についての記事です。
医療や福祉の現場では、命をどう守り、どう看取るかという大きな問いに日々向き合っています。その中でも「安楽死」や「尊厳死」というテーマは、生命倫理を考える上で避けては通れません。今回は、この二つの言葉の意味や違い、そして私たちが考えるべき視点について紹介します。
安楽死とは?
安楽死(Euthanasia) とは、患者が耐えがたい苦痛を抱えている場合に、その苦しみから解放するために人為的に死を迎えさせることを指します。
安楽死には種類があります。
• 積極的安楽死:薬物投与などで直接的に死をもたらす行為
• 消極的安楽死:延命治療をあえて行わず、自然な死を迎えさせる行為
特に積極的安楽死は、世界的にも法律で認められている国は少なく、強い議論を呼んでいます。
尊厳死とは?
尊厳死(Death with dignity) とは、患者本人の意思を尊重し、延命治療をやめて自然な死を迎えることです。
ポイントは「本人が自ら望むかどうか」です。
例えば、延命治療を拒否して、できる限り苦痛を取り除きながら最期を迎える選択をすることが尊厳死にあたります。
安楽死と尊厳死の違い
よく混同されますが、この二つには大きな違いがあります。
• 安楽死:死を「人為的に早める」側面がある
• 尊厳死:延命治療をやめ、「自然に死を迎える」ことを尊重する
つまり、安楽死は積極的な行為を伴うのに対し、尊厳死は医療の「差し控え・中止」が中心です。
世界と日本での議論
• 海外では、オランダやベルギーなど一部の国で安楽死や医師による自殺幇助が合法化されています。
• 日本では、尊厳死に関する明確な法律はありませんが、延命治療をやめる選択を「事前指示書」や「終末期医療指針」に基づいて行う場合があります。
まだグレーゾーンが多いのが現状です。
福祉・介護の現場での課題
安楽死や尊厳死の議論は病院だけではなく、福祉や介護の現場でも深く関わります。
• 高齢者施設で「延命治療を希望しない」という意思をどう扱うか
• 重い障害のある方が「自分らしい最期」を望んだときにどう支援するか
• 職員が家族や医師と意見の違いに直面したときの葛藤
いずれも「本人の意思を尊重すること」と「命を守ること」のバランスが求められます。
私たちにできること
安楽死や尊厳死の問題は、誰にとっても身近なテーマです。
• 家族や信頼できる人と「もしものとき」について話し合う
• エンディングノートや事前指示書を用意しておく
• 医療や福祉の現場で、本人の声を尊重する文化を大切にする
こうした取り組みが、「その人らしい最期」を支える第一歩となります。
まとめ
安楽死と尊厳死は、とても繊細で深いテーマです。どちらが正しいという答えはありませんが、生命倫理の基本原則である 「自律尊重」 が常に中心にあるべきです。
「どのように生きるか」だけでなく「どのように最期を迎えるか」について、私たち一人ひとりが考え、対話していくことが、よりよい医療・福祉につながっていきます。
次回は「安楽死・尊厳死」に続いて、出生前診断 や 人工生殖医療 という「生まれる命」に焦点を当てたテーマの記事を紹介します。