前回の記事の続編として、生命倫理の具体的なテーマのひとつ 「延命治療」 を取り上げたブログ記事を用意しました。
医療の進歩によって、人工呼吸器や点滴、胃ろうなどの延命治療で命をつなぐことができるようになりました。しかし、その一方で「どこまで治療を行うのか」という難しい選択を迫られることがあります。今回は、生命倫理の観点から「延命治療」について考えてみましょう。
延命治療とは?
延命治療とは、本来であれば生命を維持することが難しい状況にある人に対し、医療的な手段で命を延ばすことを目的とする治療を指します。代表的な方法には、
• 人工呼吸器の装着
• 点滴や経管栄養(鼻チューブ・胃ろう)
• 心臓マッサージや除細動
などがあります。
延命治療は「命を守る」という点でとても重要ですが、その人の生活の質(QOL: Quality of Life)を大きく変えることもあります。
延命治療をめぐるジレンマ
延命治療を行うかどうかは、家族や医療者にとって大きな決断です。例えば…
• 本人は「自然に最期を迎えたい」と考えていたが、家族は「1日でも長く生きてほしい」と願う。
• 医師は「医学的には治療を続けられる」と説明するが、本人の苦痛が増える可能性がある。
このように、「命を延ばすこと」と「本人らしさを尊重すること」の間で葛藤が生じます。
生命倫理の視点から見る延命治療
延命治療に関する判断は、生命倫理の基本原則と深く関わっています。
1. 自律尊重
本人の意思を尊重することが最優先。事前に「延命治療を望むかどうか」を話し合っておくことが大切です。
2. 善行と無危害
延命治療が本人にとって利益となるのか、それとも苦痛を増すだけなのかを考える必要があります。
3. 正義
医療資源をどう分配するか、社会的な視点からも考えなければなりません。
福祉現場での延命治療の考え方
延命治療は病院だけの問題ではなく、福祉の現場でも大きなテーマです。
• 高齢者施設:入居者が倒れたとき、救急搬送や延命処置をどうするか、事前に本人や家族と確認しておく必要があります。
• 障害福祉:重度障害のある方が長期的に人工呼吸器や経管栄養で生活する場合、「支援のあり方」や「生活の質」をどう守るかが重要です。
私たちができること
延命治療は、突然の場面で決断を迫られることが多い問題です。そのために、日常の中でできることがあります。
• エンディングノートに自分の希望を書き残す
• 家族と「もしものとき」の話をしておく
• 医師やケアスタッフと事前に相談しておく
これらの取り組みは、「本人の意思を尊重する医療・福祉」につながります。
まとめ
延命治療は「命をどこまで延ばすか」という単純な問題ではなく、「その人がどう生きたいか」を大切にする生命倫理の実践そのものです。私たち一人ひとりが、自分や家族の生き方について考え、準備をしておくことが求められています。
次回は、「安楽死と尊厳死」というさらに深いテーマを取り上げ、延命治療との違いや世界での議論を紹介します。
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