もくじ
はじめに

日本の障害福祉制度は、この20年で大きな転換期を迎えました。その中心となったのが、2006年に施行された「障害者自立支援法」です。
この法律は「障害のある人が、自分に必要な支援を自ら選び、契約して利用する」という現在の仕組み(障害者総合支援法をもとにした障害者福祉サービス)を確立させた重要な法律です。
しかし、制度導入の背景には、
・旧来の措置制度の限界
・利用者の権利意識の高まり
・社会の価値観の変化
などが複雑に絡み合っています。
本記事では、法律の内容やサービス体系だけでなく、あまり知られていない措置制度から契約制度へ移行した理由まで丁寧に解説していきます。
障害者自立支援法とは?

障害者自立支援法は、
「障害の種別に関わらず、誰もが共通の仕組みでサービスを利用できるようにすること」
を目的とした法律です。
それまで日本の障害福祉制度は、
・身体障害者
・知的障害者
・精神障害者
の3つの障害を根拠にした制度に分かれ、別々の法律、別々の仕組みで支援が行われていました。
結果として、地域差、制度差による不公平感が生まれ、「同じニーズでも利用できるサービスが違う」という問題が多く見られていました。
法律がめざしたこと
・地域で自分らしく生活できること
・どの障害にも共通のルールで支援を提供すること
・本人の選択を尊重する仕組みをつくること
・福祉サービスの質と透明性を高めること
こうした目的は、後の「障害者総合支援法」へと確実に引き継がれています。
※障害者総合支援法について解説したこちらの記事も合わせて読むと理解が深まると思います。
措置から契約へ移行した背景

障害者自立支援法を理解する上で欠かせないのが、長年続いてきた「措置制度」からの脱却です。
措置制度とは?
措置制度とは、自治体が
・利用するサービス
・利用する施設
を行政判断で決定し、利用者に措置する方式です。
措置制度は、本人や家族の希望が反映される仕組みに弱く、行政の裁量が大きい制度でした。
措置制度が抱えていた主な問題
1. 「選べない」が当たり前だった
利用者がサービスや事業所を選ぶ権利がほとんどなかった。
2. 行政の判断が優先される
行政の考える「最適なサービス」が本人の望みと合わないケースが多発。
3. 地域格差が広がった
「A市では利用できるが、B市では利用できない」という不公平が生まれた。
4. 人権面での批判が強まった
施設入所や生活場所の決定権が利用者側にないことが国際的に問題視された。
国際的価値観の変化も大きな影響
2000年代に入り、世界では
・障害者の自己決定
・地域生活への移行
・権利条約による人権保障
が重視され、日本にも同様の改革が求められていました。
特に2006年の障害者権利条約が大きな後押しとなり、
「本人の選択を尊重する制度づくり」
が急務となったのです。
契約制度への大転換

障害者自立支援法は、こうした国際的・社会的背景を受けて、制度を大きく改革しました。
契約制度とは?
利用者がサービス提供事業所と対等な立場で契約を結び、自ら選んでサービスを利用する方式です。
契約制度により実現したこと
・措置制度よりも本人の意思が尊重されやすくなり、適切なサービスを選べるようになった
・支援内容が契約書で明確化された
・事業所はサービスの質を説明する責任を持つ
・行政は「決定する側」から「支援を調整する側」へ役割転換
これは福祉制度における非常に大きなパラダイムシフトでした。
障害者自立支援法で利用できるサービス

法律では、サービスを「自立支援のプロセス」に沿って分類し、現在の基礎となる体系を構築しました。
① 介護給付(生活を支える支援)
主に日常生活を送るためのサポートです。
・居宅介護
・行動援護
特に「重度訪問介護」は、重度の肢体不自由・医療的ケアが必要な人の地域生活を支える重要な制度です。
② 訓練等給付(能力向上・社会参加を支援)
生活力や働く力を高めるためのサービスです。
・生活介護
・自立訓練(生活訓練・機能訓練)
社会参加や就労支援が強化され、地域で生きる選択肢が大きく広がりました。
③ 地域生活支援事業(市町村主体の支援)
自治体が独自に地域生活を支える枠組みです。
・移動支援
・日常生活用具の給付
・地域活動支援センター
・福祉有償運送
・点字、手話通訳 など
行政の役割が、「本人の生活を支える基盤整備」へシフトした象徴的な事業です。
※障害者福祉サービスについて解説したこちらの記事も合わせて読むと理解が深まると思います。
障害者自立支援法の課題と社会的論争

一方で、自立支援法には大きな批判もありました。
応益負担(サービス量に応じて利用者の負担額が増える方式)
「利用すればするほど自己負担が増える」
という仕組みは所得の低い障害者にとって負担が重く、多くの反対運動が起こりました。
特に、
・生活介護を毎日利用する人
・重度訪問介護を長時間利用する人
など、「生活に必要不可欠な支援」であっても負担が高額になりやすい問題がありました。
社会的運動と制度改善
「応益負担の見直しを求める全国的な行動」が起こり、裁判に発展したケースもあります。
その後、制度は段階的に改善され、所得に応じた負担上限制度が導入されました。
障害者自立支援法が残した意義

批判が多かった法律ではありましたが、現代の障害福祉にとって次の大きな功績を残しました。
① 利用者主体の「契約制度」を確立した
本人の意思でサービスを選べる仕組みは、権利保障の大きな進歩です。
② 障害種別を超えた共通制度をつくった
「障害の種類で利用できるサービスが違う」という不公平さが大きく減りました。
③ 地域生活を支えるサービス基盤を整えた
重度者が地域で暮らす流れが全国に広がるきっかけに。
④ 後の「障害者総合支援法」につながる制度の骨格をつくった
自立支援法は完成形ではなく、土台づくりという役割を果たした法律でした。
おわりに

いかがだったでしょうか?
障害者自立支援法は、日本の障害福祉制度に大きな構造改革をもたらしました。
特に重要なのは
・措置→契約への転換
・利用者の選択を中心に据えた仕組みづくり
・障害種別を超えた共通制度の構築
これらは現在の福祉の考え方の土台となり、制度は批判と改善を重ねつつ、現在の「障害者総合支援法」へと発展し、現在の「障害者福祉サービス」を実現しています。
障害者自立支援法の理解は、今の福祉制度を理解する上で欠かせない視点のひとつです。

