成年後見制度とは?仕組み・種類・費用をやさしく解説 認知症や障害のある方の財産管理に備える完全ガイド

はじめに

障害や高齢による認知症の進行などにより、

・大切な契約を本人だけで判断するのが難しい

・詐欺や悪徳商法の被害が心配

・お金の管理をどうしたらよいかわからない

といった不安を抱える家族が増えてきました。

こうした課題に対応するために整備されたのが 成年後見制度 です。

本人の権利を守りながら、安心して生活を続けられるように支援する制度として、福祉・医療・法律の領域で幅広く活用されています。

本記事では、成年後見制度の仕組み種類利用の流れ費用注意点まで、全体像がわかるように詳しく解説していきます。


成年後見制度とは?

成年後見制度は、判断能力が十分ではなくなった人を法律的にサポートする仕組みです。

判断能力が低下すると、次のような生活上のリスクが高まります。

・預金の管理ができない

・不要な契約を結んでしまう

・悪質商法や詐欺のターゲットになりやすい

・介護サービスや入院など、重要な選択ができない

・適切な相続や財産整理が困難

こうした事態を防ぐため、家庭裁判所が「後見人」を選び、本人に代わって契約したり、財産管理を行ったりします。

ポイントは、本人の意思と利益を守ることが目的であり、家族のためではないという点です。


成年後見制度の2つの仕組み

成年後見制度には法定後見制度任意後見制度 の2つがあります。それぞれ、利用するタイミングや目的が異なります。

① 法定後見制度(すでに判断能力が低下している場合)

家庭裁判所が後見人を選び、本人の生活や財産を守ります。

判断能力の程度に応じて以下の3区分に分かれています。

例:利用されやすいケース

障害認知症などの理由で銀行に行けない

・生活費の管理ができない

・不要な訪問販売契約を繰り返してしまう

・医療や介護の手続きが本人だけでは難しい

特に近年は、1人暮らしの高齢者家族が遠方に住んでいるケース障害のある方での利用が増えています。

② 任意後見制度(元気なうちに、将来に備える制度)

判断能力が保たれている段階で、将来の支援を誰にお願いするかを自分で決めて契約します。

・信頼できる家族

・長年の友人

・専門職(司法書士、弁護士、社会福祉士

など、本人が選んだ相手と「任意後見契約」を結びます。

メリット

・元気なうちに安心を確保できる

・自分が望む支援内容を具体的に決められる

・信頼する相手に生活を託せる

近年、終活や老後の生活設計の一環として利用者が増えています。


成年後見制度でできること(財産面と生活面)

後見人が行う支援は大きく 財産管理身上監護 に分かれます。

財産管理の例

・預金通帳、口座の管理

・年金、保険、税金の手続き

・家賃や公共料金の支払い

・財産の整理や相続手続き

・不動産の管理や売買(裁判所の許可が必要な場合あり)

財産トラブルや悪質商法の被害から本人を守る役割もあります。

身上監護(生活面のサポート)の例

・介護サービスの契約

・入院、施設入所の手続き

福祉サービス利用の調整

・診察や検査の付き添い、意思確認のサポート

ただし、医療行為の同意を後見人だけで決めることは原則できない、本人に代わって勝手に住まいを移動させることはできないなど、権限には制限があります


どんな人が利用するの?

以下のようなケースで利用が検討されます。

認知症で金銭管理が難しくなった高齢者

精神障害や知的障害発達障害があり一部判断が難しい人

・詐欺や悪徳商法の被害に遭いやすい人

・家族がいない、あるいは家族だけで支えるのが難しい人

・財産額が大きく、専門的な管理が必要な人

後見制度は「本人の生活を守るため」に活用されることが前提です。


成年後見制度を利用する流れ

1. 市区町村の相談窓口に相談

成年後見制度支援センターなどで事例説明制度選択の助言が受けられます。

2. 家庭裁判所へ申し立て

申し立ては本人・家族・弁護士・市町村長などが行えます。

3. 裁判所による調査・鑑定

必要に応じて医師の鑑定が行われ、判断能力の状態を確認します。

4. 後見人の選任

家族が選ばれることもあれば、専門職後見人が選ばれるケースも少なくありません。

5. 後見開始

後見人は裁判所へ定期的に「財産目録」や「収支状況」を報告します。

申し立てから開始までの期間は、一般的に1〜3か月ほどです。


成年後見制度の費用

申し立て時に必要な費用

・裁判所への申立書類の手数料:数千〜1万円程度

・医師の鑑定費用:3〜10万円(地域や医療機関による)

・書類作成に専門職を依頼する場合:別途費用が必要

後見人への報酬

・月1〜3万円程度が目安

・財産額が多い場合は増額

・裁判所が本人の支払い能力に応じて決定

※ 一部自治体では、市民後見人法人後見を活用し報酬を抑える支援が整備されています。


制度利用時に注意したいポイント

1. 一度始めると簡単に終了できない

法定後見は、本人の判断能力が戻らない限り継続します。

「必要な部分だけ一時的に使う」という使い方が難しい制度です。

2. 家族が後見人になれないこともある

家庭裁判所は、本人にとって最も利益となる人を選びます。

家族間にトラブルがある場合や、財産管理の専門性が必要な場合は、専門職後見人 が選ばれます。

3. 本人の意思の尊重が最優先

後見人は「本人の生活や希望を中心に支援する」ことが求められています。

本人の意向を無視した財産管理や生活決定は許されません。

4. 財産管理は透明性が必須

後見人は裁判所に定期報告を行い、不正防止の仕組みが整っています。


成年後見制度以外の選択肢

近年は、後見制度に加えて次のような仕組みを組み合わせるケースが増えています。

・家族信託(民事信託)

柔軟な財産管理が可能。後見制度の代替として注目される。

・日常生活自立支援事業(地域福祉権利擁護)

日々の金銭管理や福祉サービスの利用を手軽にサポート。

・財産管理契約

判断能力があるうちに、財産管理をお願いしておく契約。

それぞれメリット・デメリットが異なるため、状況に応じた選択が大切です。


成年後見制度は「生活を守るための最終的なセーフティネット」

成年後見制度は、本人の判断能力が低下した際に生活や財産を守るための重要な仕組みです。

しかし、万能な制度ではなく、利用には慎重な検討が必要です。

重要なのは、

本人の意思を可能な限り尊重すること

・制度を使う前に家族で話し合っておくこと

・後見制度以外の選択肢も知っておくこと

です。

本人の「その人らしい生活」を維持するために、家族・支援者・専門職が協力しながら支えていく姿勢が求められます。


おわりに

いかがだったでしょうか?

成年後見制度は、障害のある方や高齢者(認知症含む)において、本人の生活と権利を守るための重要な仕組みです。

判断能力が低下したときに

「何をどう決めればよいのか」

「どこまで家族が支援できるのか」

と不安を抱える人は少なくありません。

そんな状況で、後見制度は本人の意思をできるだけ尊重しながら、安心して暮らし続けるための土台となります。

ただし、制度にはメリットと同時に制限もあり、「申し立てたら終わり」ではなく、継続的な支援と専門職・家族の協力が欠かせません。

また、家族信託や日常生活自立支援事業など、後見制度を補完する選択肢も存在します。

大切なのは、本人が望む暮らしを守るために、どの制度が最も適切かを早めに考えておくことです。元気なうちに家族と話し合い、必要な情報を共有しておくことで、将来の不安を減らし、より安心できる生活につながります。

成年後見制度は、本人の「その人らしい生活」を守るための手段のひとつです。制度の特徴を理解し、必要に応じて専門機関や相談窓口を上手に活用しながら、よりよい選択をしていくことが重要です。