もくじ
はじめに

高齢化が進む日本では、病気の治療だけでなく最期をどう迎えるかが大切なテーマになっています。
特に延命治療は、突然選択を迫られることが多く、家族が迷ったまま判断してしまうケースも少なくありません。
「延命治療ってそもそも何?」
「どんな場合に行われるの?」
「やった方がいいの?それともやらない方がいいの?」
この記事では、延命治療の仕組みと選択のポイントをわかりやすく詳しく解説します。
延命治療とは?

延命治療とは、病気の治療が難しくなったり、回復が見込めない状態になったりしたときに、人工的な手段を用いて命をできるだけ長く保つ医療行為です。
延命治療の目的は、
「病気を治すこと」ではなく、
「生命を維持すること」です。
つまり、身体の機能が弱くなっても、医療の力でその働きを補おうとすることが延命治療にあたります。
延命治療が必要となる背景

延命治療が選択肢にあがるときは、次のような状況が多いです。
● 回復の見込みが低い病気の末期
・がんの終末期
・進行した認知症
・多臓器不全
● 急激に容体が悪化したとき
・心筋梗塞や脳卒中
・重篤な感染症
● 意識が戻らない状態が続くとき
・重度の脳損傷
・植物状態が長期間続くケース
● 超高齢による体力低下
身体の回復力が弱まっていると、治療より維持を中心にした医療が必要になることがあります。
いずれも「病状を治す医療」から「生活の質を保ちながら命を維持する医療」へ目的が変わってくる場面です。
延命治療の種類

■ 人工呼吸器
呼吸が弱ったときに機械で空気を送り込む装置。
肺炎・筋力低下・意識障害などで使われます。
メリット:呼吸が維持できる、命をつなげる
デメリット:苦痛を伴うことがある、外せなくなる場合がある
■ 心肺蘇生
心臓が止まった際に胸骨圧迫・AED・薬剤投与を行い、心拍を戻す医療。
一般的に高齢の方や重度の病気の方に行うと、重大な後遺症が残ることが多い 病院では「蘇生処置をしないという意思」を選択する人も増えている
■ 点滴・経管栄養(胃ろう・鼻腔チューブ)
食事を取れなくなった時に栄養と水分を提供する方法。
メリット:栄養を確保できる
デメリット:苦痛や違和感がある、誤嚥のリスクがある
■ 血液透析
腎臓の代わりに血液をきれいにする治療。
体力が必要で、終末期には負担が大きい場合があります。
■ 昇圧剤・点滴
血圧を上げたり、脱水を補ったりするための薬剤。
重症時には点滴量が増え、本人の負担が大きくなる場合があります。
延命治療のメリット

● 命が助かる可能性がある
治療を行うことで、回復のチャンスが得られる場合があります。
● 家族が心の準備をする時間が持てる
突然の別れとならず、家族に心の整理をする時間が生まれます。
● 病状によっては回復し、自分らしい生活に戻れるケースもある
脳卒中や感染症など、治療で改善する可能性がある場合に効果的です。
延命治療のデメリット

● 身体的な苦痛が大きい場合がある
人工呼吸器や点滴が痛みや不快感を伴うことがあります。
● 根本的な回復にはつながらない場合が多い
延命治療は治すための医療ではないため、後遺症や寝たきり状態が続く可能性があります。
● 最期の時間を本人らしく過ごしにくくなる
家族と会話ができない、医療機器に囲まれるなど、穏やかさが損なわれるケースもあります。
● 家族の精神的・経済的負担が増える場合がある
長期入院や医療費がかさむこともあります。
延命治療を検討する際の判断基準

① 本人の意思はどうか
生前に「延命治療を望まない」と言っていた場合は最優先すべきです。
② 痛みや苦痛はどれくらいか
治療によって苦しみが増えるなら、医療者と十分に相談する必要があります。
③ 回復の可能性はあるか
完全に回復するのか、部分的に回復するのか、回復の見込みがないのか。
④ 生活の質(QOL)が保てるか
命を延ばすだけでなく、「どう生きるか」も大切な視点です。
延命治療と終末期医療の違い

● 延命治療
→ 医療の力で生命をできるだけ長く維持する。
● 終末期医療(緩和ケア)
→ 痛みや苦しみの軽減を重視し、残された時間を穏やかに過ごすことを目的とする。
多くの人が混同しやすいですが、目的は全く違います。
よくある誤解と正しい理解

● 「延命治療をしない=見捨てる」ではない
延命治療を行わない選択でも、痛みを取り除く緩和ケアはしっかり行われます。
● 「延命治療をすれば必ず元気になる」わけではない
治療後に後遺症が残り、以前の生活に戻れないケースも多いです。
● 「延命治療は絶対に必要」でもない
医師と相談したうえで、本人や家族の価値観を尊重する選択が重要です。
ACP(人生会議)とは?

ACPとは、
Advance Care Planning(アドバンス・ケア・プランニング)の略で、
「もしものときのために、治療やケアの希望を話し合っておく取り組み」です。
ACPで話す内容の例
・延命治療を望むか、望まないか
・苦痛緩和をどこまで希望するか
・どこで最期を迎えたいか(自宅/病院/施設)
・判断能力がなくなった場合、誰に意思決定を託すか
人生会議は一度だけでなく、人生の節々で見直していくことが大切です。
※安楽死と尊厳死について解説したこちらの記事も合わせて読むと理解が深まると思います。
家族としてどう向き合うか

● 本人の価値観を中心に考える
「本人ならどうされたいか」を軸にすることが重要です。
● 医療者の意見も聞きながら焦らずに判断
医師・看護師・ソーシャルワーカーは多くのケースを見てきた専門家です。
● 家族同士の気持ちを尊重する
介護や医療の選択は、家族間で意見が分かれやすいテーマです。
● どんな選択をしても“間違いではない”
後悔しないために必要なのは、選択の正しさではなく「話し合ったプロセス」です。
実際の相談で多いケース

● 「人工呼吸器をつけるべきか迷っている」
→ 回復の可能性、苦痛、意思表示の有無をもとに家族で話し合うことが大切。
● 「胃ろうをつけるべきかどうか」
→ 快適に過ごせるか、誤嚥リスクを減らせるか、本人の生活の質を考える。
● 「CPR(心肺蘇生)はどうするべきか」
→ 高齢者の場合、強い圧迫で骨折や後遺症の可能性が高いことも説明される。
最後に選択を尊重することが大切

延命治療を選ぶことも、選ばないことも、本人の尊厳と家族の想いを尊重した大切な選択です。
どちらを選んでも「正解・不正解」はありません。
大切なのは、誰もが納得できる形で決断することです。
おわりに

延命治療は、医学的にも心理的にも複雑なテーマですが、正しい知識を持つことで、いざというときに後悔しない判断につながります。
家族・医療者と話し合いながら、
「どのように生きたいか」
「どのように最期を迎えたいか」
を共有しておくことが、本人と家族の安心につながります。
延命治療は、命を守るための医療であると同時に、生き方を考えるきっかけでもあります。

