もくじ
はじめに

日本では高齢化が加速し、認知症の人は年々増え続けています。
家族の誰かが認知症と診断される、職場の利用者に認知症の症状が見られる──こうした場面は決して特別ではありません。
しかし、認知症は「記憶障害だけの病気」ではなく、
脳の働きの変化により、感情・行動・生活上の判断がゆっくりと変わっていく状態です。
そのため、本人が最も困っていることは「忘れる」ことそのものではなく、
“自分の身に何が起きているのか分からない”という不安や混乱であるケースが多くあります。
この記事では、認知症の基本理解から支援のポイント、家族に起こりやすい悩み、地域社会の役割まで、幅広く解説します。
一般の方にもわかりやすく、福祉現場の視点も取り入れてまとめています。
認知症とは? 加齢によるもの忘れとはどう違うのか

認知症は「脳の機能低下によって生活に支障が出る状態」の総称です。
加齢による単なるもの忘れとは根本的に異なります。
● 加齢によるもの忘れとの違いを詳しく見る

認知症かどうか迷ったときのポイントは、
「忘れたことで生活上の困りごとが起きているか」です。
認知症の主な原因疾患と特徴

認知症は一つの病気ではなく、複数の疾患によって引き起こされます。
● アルツハイマー型認知症
最も割合が多い。海馬の萎縮により、記憶障害が初期から目立つ。
※ダウン症の方もアルツハイマーを発症しやすいと言われています。
● 脳血管性認知症
脳梗塞・脳出血などが原因。症状に「できる日とできない日の差」が目立つ。
● レビー小体型認知症
幻視が特徴。注意力が急に落ちるなど“波”が大きい。パーキンソン病のような動作の遅さが現れることも。
● 前頭側頭型認知症
性格が急に変わる、同じ行動を繰り返すなど、行動面の変化が中心。比較的若い年代にも起こる。
以上のように、疾患を理解することは、適切な支援の方向性を見極めるために重要です。
認知症で起こる中核症状と行動・心理症状

認知症の症状は大きく2つに分類されます。
これを分けて考えると、支援がとても組み立てやすくなります。
中核症状(脳の変化によって直接起こる症状)
記憶障害 → 同じ質問を繰り返す、買い物で何を買うか忘れる
見当識障害 → 今日の日付が分からない、季節を間違える、場所が分からない
実行機能障害 → 段取りが分からず料理や掃除が難しくなる
失語・失行・失認 → 言葉が出てこない、使い方が分からない、物の認識が曖昧になる
これらは「脳の変化」そのものから起こるので、叱ったり注意したりしても改善しません。
行動・心理症状(BPSD)
環境や本人の不安がきっかけで出てくる症状です。
・不安
・焦り
・抑うつ
・もの盗られ妄想
・幻覚、幻視
・徘徊
・抵抗、拒否
・昼夜逆転
これらは、支援者の関わり方や環境調整で大きく軽減できるのが特徴です。
認知症の人が本当に困っていることとは?

記憶や判断力が落ちるだけではなく、
「自分がいつもと違う」「思うようにできない」という感覚から生まれる心理的な負担が非常に大きいとされています。
本人が抱く不安の例
・「家に帰れない」と感じる(見当識障害)
・「盗まれた」と思う(記憶の抜け落ちによる誤解)
・「誰も自分を理解してくれない」と感じる
これらは、本人が必死に状況を理解しようとする中で生まれる防衛的な反応でもあります。
支援者が 安心・共感・見通しの提示 を行うことで大きく改善します。
認知症の人を支えるための具体的な支援ポイント

ここでは、福祉現場でも使われる重要な関わり方を広く紹介します。
① 否定しない・訂正しすぎない
「そんなこと言ってないよ」「間違ってるよ」と訂正すると、本人は責められたと感じ不安が高まります。
ポイント、
・気持ちを先に受け止める
・違いを優しく上書きして伝える
・相手が安心できる情報を簡潔に提示する
② 周囲の環境を整えて混乱を減らす
認知症の症状は環境の影響を強く受けます。
整った環境は本人の不安を大きく軽減します。
例:
・トイレや浴室の案内をわかりやすく
・ものの定位置を決める
・カレンダー、メモ、写真を活用する
・夜間の照明を少しつけておく
環境調整だけで行動や心理症状が劇的に減ることも珍しくありません。
③ 本人のできる力を引き出す支援(自立支援)
認知症でも「できること」はたくさん残っています。
・食器を並べる
・洗濯物をたたむ
・買い物に同行する
・天気を一緒に確認する
小さな役割でも「自分はまだできる」という自信につながり、意欲の維持にも直結します。
④ 生活リズムの安定が症状に大きく影響する
睡眠・運動・食事の乱れは、認知症の症状悪化につながりやすいとされています。
・朝日を浴びる
・軽い散歩を取り入れる
・昼寝は30分以内
・規則正しい食事
生活リズムを整える支援は、最も効果が高いケアのひとつです。
⑤ 医療・介護・家族のチーム支援で負担を軽減する
認知症は一人で抱えると、家族も支援者も疲弊します。
以下の専門職が支援に関わることで、本人のQOLは大きく向上します。
・主治医(診断・薬物調整)
・ケアマネジャー(生活プランの調整)
・介護職(生活援助・見守り)
・看護師(健康管理)
・作業療法士(認知機能・生活動作の訓練)
・地域包括支援センター(総合的な相談)
「誰に相談すればいいのか分からない」と感じたら、まず地域包括支援センターに相談するのが最も確実です。
家族に起こりやすい悩みとケアラー支援の重要性

認知症の介護は、身体的・精神的な負担が大きく、家族の孤立につながりやすいと言われています。
家族が抱えやすい悩み
・感情的に対応してしまう
・夜間の見守りで疲れる
・もの盗られ妄想によって家族が責められる
・周囲に相談しづらい
・仕事と介護の両立が難しい
介護者が疲れ切ってしまうと、結果的に本人も不安が増えてしまいます。
ケアラー支援で大切なこと
・周囲や専門職と早めに連携する
・ショートステイなどの「介護の休息」を活用する
・家族だけで抱え込まない
・認知症カフェなどで情報交換する
「一人で頑張りすぎないこと」こそ、持続可能な支援の第一歩です。
認知症と共に生きられる社会へ 〜地域に求められる視点〜

認知症の人が暮らしやすい社会は、高齢者・障害のある人・子どもなど、多様な人にとって優しい社会でもあります。
地域に求められる取り組みは次の通りです。
・認知症サポーターの育成
・商店や交通機関の配慮
・見守りネットワークの構築
・本人の意思決定を尊重する支援
「認知症だからできない」ではなく、地域の支えによって“その人らしさ”を守ることができる時代になっています。
おわりに 認知症の理解が深まることで支援はもっと優しくなる

いかがだったでしょうか?
認知症は特別な病気ではなく、誰にでも起こり得る脳の変化です。
大切なのは、
・本人の世界を理解する
・不安に寄り添う
・環境を整える
・できる力を尊重する
・家族や支援者が孤立しない
この積み重ねによって、本人の生活の質(QOL)は大きく改善します。
認知症の支援は「完璧に介護すること」ではなく、本人が安心できる日常を一緒につくっていくことなのです。

