もくじ
はじめに

福祉の現場では、「支援」だけでなく、本人の権利を守ることが欠かせません。
しかし、
「権利擁護って具体的に何を指すの?」
「どんな制度があるの?」
と疑問を持つ人も多いかもしれません。
この記事では、福祉における権利擁護の基本から制度の仕組み、現場での課題、未来の展望までを徹底解説します。
介護・障害福祉・子育て・医療・地域福祉に関わる方に広く役立つ内容です。
1. 権利擁護とは?

権利擁護(けんりようご)とは、人として当然持っている権利が守られ、尊重され、実現できるように支えることです。
ここでいう「権利」とは、特別な人だけが持つものではなく、年齢や障害の有無に関係なく、誰もが持つ基本的な権利です。
例として…
・安全に暮らす権利
・自分の生活を自分で選ぶ権利
・不当な扱いを受けない権利
・必要な医療や福祉サービスを受ける権利
・プライバシーが守られる権利
・財産を守り(成年後見制度など)、自分の意思で使う権利
・意見を伝え、尊重される権利
福祉では、支援が必要な人ほどこの権利が奪われやすい現状があります。
そのため、支援者は権利が適切に守られているかを常に確認し、行動する責任を持っています。
2. なぜ福祉で権利擁護が重要なのか

福祉サービスを利用する人は、高齢(認知症など)、障害、病気、生活困窮など、様々な理由で自分の意思や希望を伝えることが難しい状況に置かれがちです。
その結果、以下のような問題が起こりやすくなります。
・虐待(身体的・心理的・性的・経済的)
・サービス提供者や家族による過度な干渉
・本人の希望が無視される生活
・不当に制限された外出、人間関係
・財産管理のトラブル
・自分で生活の選択ができない状態
特に「良かれと思って」行われる行動でも、結果的に権利を奪ってしまうことがよくあります。
例えば、
「危ないから外出はやめておきましょう」
「本人はわからないから家族が全部決めればよい」
「説明しても難しいから細かく伝えなくてもいいだろう」
これらは、支援者の善意の裏に本人の意思尊重が欠けているケースです。
つまり、福祉における権利擁護は
「支援者中心ではなく、本人の人生中心で考える姿勢」と言えます。
3. 権利擁護の種類と制度の仕組み

権利擁護はひとつの制度を指すのではなく、複数の仕組みによって成り立っています。
① 成年後見制度(法的な権利擁護)
判断能力が低下した人の財産管理や契約を支援する制度。
法定後見:すでに判断能力が不十分になってから利用
任意後見:将来に備えて、自分で支援内容を決めておく制度
近年は虐待や財産トラブルを防ぐための利用も増えています。
※成年後見制度についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
② 日常生活自立支援事業(地域の権利擁護)
社会福祉協議会が行う事業で、
・お金の出し入れのサポート
・介護、障害サービス利用手続きのサポート
・届け出や申請の同行
など、生活に密着した支援を行います。
成年後見制度ほど大がかりではないが、日常生活に必要という人に適しています。
③ 相談支援・地域包括支援センターの役割
地域には、権利擁護の相談窓口が多数あります。
・地域包括支援センター(高齢者)
・相談支援専門員(障害者)
・子ども家庭センター
・福祉事務所
困りごとを相談したり、サービス調整をしたり、虐待の予兆に気づく大切な役割があります。
④ 苦情解決制度・オンブズマン制度
福祉施設や事業所におけるトラブルを解決するための仕組み。
・第三者委員によるチェック
・外部にある独立したオンブズマンへの相談
・透明性を高める記録と説明責任
これらは、利用者と事業所の力関係の偏りを正すために重要です。
⑤ 権利擁護センター・法律相談窓口
社会福祉協議会を中心に、以下のような支援を行っています。
・権利侵害の相談
・成年後見制度の説明、申請サポート
・法律相談へのつなぎ
・虐待防止の啓発活動
地域全体で権利を守る基盤として機能しています。
4. 虐待や差別から守るための法律と地域の動き
福祉の権利擁護を支えるのは制度だけではなく、法律も大きな役割を果たしています。
● 高齢者虐待防止法
● 障害者虐待防止法
● 障害者差別解消法
これらの法律は、
・体罰や暴力
・心理的虐待
・介護放棄
・過剰な身体拘束
・性的虐待
・経済的搾取
を禁止し、発見した場合はすぐに通報・保護が必要です。
また自治体は、
・相談窓口
・一時保護の制度
・養護者支援
・地域での見守り体制
など、地域全体で権利を守る取り組みを進めています。
5. 意思決定支援と権利擁護の深い関係

近年、権利擁護の中心概念として注目されているのが意思決定支援です。
意思決定支援とは?
本人の意思を最大限尊重し、選択ができるようサポートすること。
たとえ言葉で伝えられなくても、
・表情の変化
・嫌がるしぐさ
・好きなもの、嫌いなもの
・生活習慣や価値観
から本人らしさを読み取り、選択肢を提示しながら一緒に考えます。
これは単なる「説明」ではなく、本人の人生に関する大事な決定を支えるプロセスです。
意思決定が促されることで、
・自己肯定感の向上
・トラブルや虐待の予防
・自分らしい生活の実現
につながるため、権利擁護とは切り離せない関係にあります。
6. 現場で起こりやすい権利侵害の例

権利侵害は、必ずしも悪意によって起こるとは限りません。
以下のような日常の中の小さなズレから起きることも多いです。
● 本人の意向を聞かずに支援が進む
「忙しいから」「説明が長くなるから」と意向確認が省かれる。
● 過剰な制限
外出、食事、職場での選択などを、「危ないから」という理由で制限しすぎる。
● 家族が本人の財産を勝手に管理
悪意がなくても、本人の意思が置き去りになることがある。
● プライバシーの軽視
勝手に部屋に入る、個人情報が不用意に扱われるケース。障害者福祉サービスにおけるグループホーム(共同生活援助)ではプライバシーを考慮して一人ひとりに部屋が設置されています。
● 障害や高齢を理由にした無意識の差別
「できないはず」「無理だろう」という固定観念で選択肢を奪ってしまう。
これらは法律違反でなくても、
本人の尊厳や意思を損なう重大な権利侵害です。
7. 権利擁護を実現するために支援者ができること

権利擁護は制度だけでは成立しません。
日々向き合う支援者の意識と行動が鍵を握ります。
① 本人の声を“聴く”姿勢
言葉以外の情報(ノンバーバルコミュニケーションなど)も含めて理解する。
② わかりやすい説明を心がける
専門用語を避け、選択肢・リスクを丁寧に伝える。
③ 記録や根拠を残す
透明性が高まり、権利侵害の予防になる。
④ 相談機関・地域資源を活用する
自分たちだけで抱え込まず、他機関と連携する姿勢。
⑤ 本人の価値観を大切にする
「こうあるべき」ではなく、“その人らしさ”を尊重する。
8. 家族・地域・専門職が果たす役割

権利擁護は福祉事業所だけで行うものではありません。
● 家族の役割
本人の気持ちを代弁しつつも、本人の意思が中心であることを忘れないこと。
● 地域の役割
民生委員、近隣住民、ボランティア、医療機関などが情報共有し、“地域全体で支える体制”が重要。
● 制度、行政の役割
虐待通報、相談窓口、成年後見制度、オンブズマンなど、権利侵害に対処する枠組みを整える。
権利擁護は、ひとつの専門家ではなく、社会全体の協力が不可欠な取り組みです。
9. 権利擁護が抱える課題と今後の展望

権利擁護は進化しているものの、依然として多くの課題があります。
● 本人の意思を確認する手段の不足
AIを活用した新しいコミュニケーション支援が期待される。
● 支援者の知識・価値観の差
研修不足により“権利の視点”が抜けがち。
● 家族の意向との衝突
本人の希望と家族の希望が異なるケースへの調整。
● 人手不足による丁寧な支援の困難さ
忙しさが“本人不在の支援”を生みやすい。
● 社会的偏見の根強さ
障害、高齢(認知症含む)、発達障害などへの固定観念の解消が急務。
今後は、
・AIテクノロジーによる意思決定支援
・権利侵害を早期に発見する仕組み
・専門性の高い相談支援の育成
・地域ぐるみの権利擁護ネットワーク
などの発展が期待されています。
おわりに

いかがだったでしょうか?
権利擁護は特別な活動ではなく、日常の支援の中で「その人の人生を尊重する」ための基盤です。
・何を大切にしているのか
・どんな生活を望んでいるのか
・どこに違和感や嫌悪を感じるのか
そのひとつひとつに耳を傾ける姿勢が、権利擁護の第一歩です。
支援者・家族・地域・制度が連携し、“本人の声が中心にある支援”を実現することこそ、これからの福祉に求められる姿です。
この記事が、日々の支援や学びに役立つきっかけになれば幸いです。

