もくじ
はじめに
摂食（食べる）と嚥下（飲み込む）は、私たちが毎日ごく自然に行っている動作ですが、身体の多くの器官が複雑に連携して成り立っています。
高齢者（認知症含む）の介護、子どもの発達、発達障害、病気や知的・身体・精神障害のある方の支援など、さまざまな場面で摂食嚥下の理解が役立ちます。
この記事では、
・摂食と嚥下の仕組み
・よくあるトラブル
・誤嚥の危険性
・支援方法のポイント
をまとめて解説します。
摂食と嚥下とは？
摂食（せっしょく）
食べ物を「認識→口に入れる→噛む」までの一連の動作。
・食べ物を目で見て判断する
・匂いを嗅いで食べ物だと認識する
・口で噛んで細かくする
この段階には、歯・舌・頬・唾液などが深く関わっています。
嚥下（えんげ）
噛んだ食べ物を 飲み込み、胃へ送るまで のプロセス。
飲み込みの瞬間は、気管と食道の入口が切り替わる必要があり、わずか1秒以下で精密に動きます。
食べる・飲み込む仕組み（5つの嚥下段階）
摂食嚥下は、次の5つのステップで進みます。
1. 先行期（食物の認識）
見た目・匂い・噛みやすさなどから「食べられる」と判断する段階。
2. 準備期（咀嚼：そしゃく）
食べ物を噛み、唾液と混ぜて飲み込みやすい形に整える。
3. 口腔期
舌が食塊（しょくかい）をまとめ、喉の奥へ送る。
4. 咽頭期
飲み込みの瞬間。 気管が閉じ、食道が開く。誤嚥が起こりやすいのもこの段階。
5. 食道期
食道が運動し、食べ物を胃へ送り届ける。
このすべてが滑らかに連動することで、安全に食事ができます。
摂食嚥下にトラブルが起こる原因
摂食や嚥下がうまくいかない状態を「摂食嚥下障害」といいます。
原因はさまざまですが、代表的な理由は以下の通りです。
① 加齢による筋力の低下
高齢になると、舌や咽頭の筋力が弱まり、飲み込みが遅くなります。
② 脳血管疾患（脳梗塞・脳出血）
脳がダメージを受けると、嚥下に関わる神経がうまく働かなくなることがあります。
③ パーキンソン病・認知症
動作の遅れや注意力の低下により、飲み込みのタイミングがずれることがあります。
④ 口腔内の問題
歯の欠損、合わない入れ歯、唾液不足なども原因になります。
⑤ 子どもの発達
咀嚼の発達がゆっくりな場合や、食べ物の感覚が苦手な場合もあります。
よく見られる症状 こんなサインは要注意
摂食嚥下障害があると、次のような症状が起こります。
・食事中によくむせる
・食べ物が 口に残る
・飲み込むまでに時間がかかる
・食事中、食後に咳が出る
・声がゴロゴロ する（食べ物が喉に残っている可能性）
・食事量の減少、体重減少
特に「むせる」「咳が増えた」は誤嚥の手前で起きやすい症状です。
誤嚥（ごえん）とは？ 命に関わるケースも
誤嚥＝食べ物や飲み物が気管に入ってしまうこと。
誤嚥が起こると、次のリスクが高まります。
● 誤嚥性肺炎
飲み込んだ食べ物や唾液に含まれる細菌が肺に入り、炎症を起こす。
● 繰り返す発熱
肺や気道が刺激され、微熱が続くことも。
● 食事が怖くなる
食べることへの不安が大きくなり、低栄養につながる。
誤嚥を防ぐためには早めの気づきと適切な支援が大切です。
摂食嚥下を支援するポイント
ご家庭、施設、医療現場などで役立つ基本的な支援方法を紹介します。
① 姿勢を整える
・背筋を伸ばし、椅子の背もたれに深めに座る
・足の裏が床につくように調整
姿勢が悪いと、飲み込みのタイミングがずれやすくなります。
② ひと口量を少なくする
大きなひと口は誤嚥のリスクが上がります。
③ とろみをつける
液体は誤嚥しやすいので、必要に応じてとろみ剤を活用。
④ 食べやすい形態に調整する
刻み食、やわらか食、ムース食など、咀嚼力に合わせた調整が有効。
⑤ 食事のスピードをゆっくりに
急ぐと飲み込みの余裕がなくなり、むせやすくなります。
⑥ 口腔ケアを徹底する
摂食嚥下に関わる専門職
摂食嚥下の評価・訓練には複数の専門職が関わります。
・医師（嚥下内視鏡・嚥下造影検査）
・言語聴覚士（ST） → 嚥下機能の評価・リハビリ
・歯科医師、歯科衛生士 → 口腔ケアや咀嚼機能の調整
・看護師、介護職 → 日常の観察、食事介助
・栄養士 → 食事形態の調整、栄養管理
多職種で支えることで、安全な食事の実現につながります。
おわりに
摂食と嚥下は、私たちが日常の中で無意識に行っている動作ですが、そこには多くの筋肉・神経・臓器が連動する、とても精密な仕組みが働いています。
そのため、わずかな変化でも「むせが増える」「食べにくい」「飲み込みにくい」といったサインとして現れ、健康状態にも大きく影響することがあります。
特に高齢者（認知症含む）や病気・障害のある方にとって、食べる・飲み込む機能が低下すると、誤嚥性肺炎や低栄養など、生活の質を左右する問題が起こりやすくなります。
しかし、姿勢の調整、適した食事形態、ゆっくりとした食事ペース、口腔ケアの徹底 といった日々の工夫によって、多くのリスクは減らすことができます。
また、摂食嚥下はひとつの職種だけで支えるものではなく、医師・言語聴覚士・歯科医師・看護師・介護職・栄養士など、複数の専門職が協力してサポートすることで、安全で楽しい食事の時間が実現します。
食べることは、栄養をとる手段であると同時に、楽しみや人との交流にもつながる大切な営みです。
日々の小さな変化に気づき、必要に応じて専門職へ相談することで、「安心して食べられる毎日」を守ることができます。
摂食と嚥下の理解が、あなたや身近な人の健康を支える一歩となることを願っています。
